金融タイムス・記者メモ<記者メモ>
9月5日号
そごう、潰してはみたものの…

 「そごう救済に税金を使うな!」―。イケイケドンドンの駅前大型店戦略を展開してきたそごうは、バブル景気の崩壊による個人消費の冷え込みから、経営不振に陥り多額の借入金返済に行き詰まったため、興銀を中心に七十三の主要借入れ金融機関から六千三百億円の債権放棄を取り付けて「再生」を目指した。だが、準メインの新生銀行(旧長銀)が行おうとした約九百七十億円の債権放棄(預保が同行の債権を買い取って債権放棄)がマスコミ、世論、国会から集中砲火≠ノ。ちょうど中元商戦期にそごうでは顧客離れに直面し、やむなく、急遽、「民事再生法」を適用することになった。
 これにより世論は落ち着き、「めでたし、めでたし」となったのだが、実はこのワリを食ったのが、信金業界や地銀、第二地銀業界。

 実は地域金融に大影響

 実は、全国各地で「そごう」を核とした地元商店街の活性化を目指して、地元中小企業の支援役の地域銀行や信金が、要請に応じて億単位の融資協力を行っていたのである。
 債権放棄による再生を目指すのであれば、そごう案件は「破綻懸念先」などの分類で済むのだが、民事再生法による破綻となれば、即、「破綻先」に分類される。破綻懸念先ならば担保等差し引いた額の七、八割の引当で済むところ、「破綻」により、差額全額の引当金に。

 後順担保では回収なしも…

 「そもそも、そごう融資の担保はあってないも同然だろうし、担保がかなりあったとしても、債務超過に近いそごうから、後順位の債権者が回収できるものはほとんどないでしょう。融資していた信金には、相当、ボディーブローとなって響くでしょうね…」(金融機関関係者)という。
 こうした被害≠ノあった中小金融機関はざっと八十にも上ると言われ、信金業界では全信連(三十五億円)、千葉信金(十九億円)、木更津信金(七億七千万円)などがそごうに融資をしていた(但し木更津そごうは民事再生法ではなく清算)。特に、町の中小企業に何百万円や何千万円貸すのが通常の信金にとっては、「億単位」の融資損失は大きいと見られる。

 地元経済活性のためがアダに

 ある信金関係者はこう同情する。
「実は、うちにもそごうから融資してくれ…と話があったようなんです。ですが、億単位の大きな融資金額だったことと、やや地域的に離れていることなどから、融資は実行しなかったんですね。
 たまたまこんなことになって、うちは当時の判断が幸いしたなと胸をなで下ろしましたが、地元経済のためにそごうに融資協力をした信金さんは、まったくお気の毒ですよ。
 そごうさんは大企業ですから、融資金利は非常に低いし、たとえ信金がそごうに融資したからといって、入出金とか預金で信金を使ってくれるわけでもないでしょう。信金にとってメリットは全然ない取引なのに、ただただひたすら地元経済のためにそごうに融資をして、それが焦げ付いて億単位の損失をかぶったんですからね…」

 民事再生は「和議」

 そもそも、一般には、「民事再生法」適用は、「企業の死滅、撲滅」のごとく思われているが、民事再生法は昔の和議法の使い勝手を良くしたもの。要は、「債権放棄による再生」も、「民事再生法による再生」も、結局は「一部借金棒引きによる立て直し」ということでは同じなのである。
 それを勘違い?して、「悪者を叩く」はずの「そごうつぶせ」の大コールで、民事再生法を適用。これが巡り巡って結局は真面目に地域活性に取り組んだ中小金融機関や中小企業にダメージを与え、失業者を増やし、また税金投入も二百三十〜四百三十億円増えるとなれば、一体、あの騒ぎは何だったのか。そして「世論受け」ばかり考えて、くるくると対応を変える国会運営の責任は。

  尻馬に乗ったマスコミの責任も?

「『当局の説明不足』と言われれば確かにそうなのかも知れないが、感情論でマスコミが走り出してからは、こちらがいくら何を言っても全然ダメだった…。こちらは精一杯考えて、最も税金投入が少なく、社会的影響も少なくて済む方法を選んだのだが…」と、当局関係者は苦々しげに嘆息するばかりだ。
 それにしても、対そごう問題と、対日債銀問題(ゼネコン多)の政治家の熱意≠ノは相当な開きがある。
 そごうはすぐに潰したが、一方、日債銀問題では一ヶ月粘って瑕疵担保特約の正当性を政治家が押し通し、ゼネコン再建への道筋をつけた。
「結局、そごうは政治家にとって潰れても大して影響なかったから、さっさと潰されたのでは…」との見方もあるようだ。
 

読みものバックナンバー出版のご案内