Mises Institute(ミゼス研究所)のシニアフェローであるマーク・ソーントン博士は、オーストリア学派経済学の視点から、現在のアメリカおよび世界経済が直面している危機的状況について、ホストのアンディ・シェクトマン氏と議論しています。
ソーントン氏の主張は、現在の経済・政治的混乱は単なる偶然や無能の結果ではなく、「パワー・エリート(Power Elite)」と呼ばれる支配層が、ケインズ主義的なシステム(インフレと債務)を利用して、意図的に富と権力を自身に集中させている結果であるというものです。
彼は、米国が「帝国の黄昏」にあり、ドルの覇権が崩れつつある中で、金(ゴールド)などの現物資産を持つことの重要性を説いています。
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分析概要
1. 「邪悪か、愚かか?」への回答:二層構造の支配
「エリートは邪悪なのか、それとも単に愚かなのか?」という問いに対し、ソーントン氏は「その両方であり、役割が異なる」と明確に回答しています。- 愚かな「表の顔」:政治家などの表舞台に立つ人々は、再選されることだけを考え、自らの政策がもたらす破壊的な結果を理解していないという意味で「愚か(Stupid)」である場合があります。
- 邪悪な「黒幕」:その背後にいるビッグ・バンカー(巨大銀行家)、大物政治家、超富裕層といった「パワー・エリート」は、極めて意図的(Deliberate)に行動しています。彼らは社会主義的・ケインズ主義的なイデオロギーを利用し、通貨供給量の膨張(インフレ)、国家債務の増大、規制強化を通じてシステムを操作し、自分たちの利益のために危機を先送り(缶を蹴る)しています。彼らにとって危機は利益の源泉であり、これは「邪悪(Evil)」な行為です。
2. 米国覇権の喪失とBRICSの台頭
ソーントン氏は、米国がかつての大英帝国と同様に、金融システムを乱用したことで支配力を失いつつあると指摘します。- ドルの武器化と財政規律の欠如:米国は外交政策においてドルを武器として使い(制裁など)、国内では無制限の財政赤字を垂れ流しています。これにより、世界中の国々が米国債やドルへの信頼を失っています。
- BRICSの「長いゲーム」:西側諸国が短期的な成果(高い時間選好)を求めるのに対し、中国やインドを含むBRICS諸国は「低い時間選好(Low Time Preference)」を持ち、一歩ずつ着実に(Step-by-step)脱ドル化と代替システムの構築を進めています。彼らは金(ゴールド)を蓄積し、西側が自壊した後に主導権を握る準備をしています。
3. 金融システムの脆弱性と「ブラックスワンの群れ」
現在のリスクは、単一の事象ではなく、中央銀行の政策に起因する「ブラックスワンの群れ(多数の潜在的危機)」であると警告しています。- 危機の要因:中央銀行による長年の低金利と通貨増刷が、あらゆる資産(株式、不動産、債券)にバブルと過剰なレバレッジを生み出しました。
- 具体的な火種:「日本の円キャリー取引」の巻き戻し、商業用不動産、プライベート・エクイティ、企業債務など、どれが最初に崩壊してもおかしくない状況です。メディアが主張する「伝染(Contagion)のリスクはない」という説は、2008年のサブプライム危機前と同様の「ナンセンス」であると切り捨てています。
4. 金・銀の重要性と暗号資産への懐疑
- スマートマネーの動き:中央銀行や「スマートマネー(賢明な投資家)」は、株式市場のバブル崩壊に備えて金(ゴールド)に資金を移動させています。
- 銀の戦略的価値:銀(シルバー)は、エレクトロニクスやグリーンエネルギーに不可欠な「戦略的金属」でありながら、消費されて消えていく(リサイクルが困難な)性質を持つため、将来的には極めて高い価値を持つと予測しています。
- 暗号資産の変質:ビットコインなどの暗号資産は当初、政府から独立した自由な通貨として期待されましたが、現在はETFや規制、課税を通じてウォール街と政府に取り込まれてしまった(Co-opted)と批判しています。特にステーブルコインは、米国債の需要を支える道具となり、実質的なCBDC(中央銀行デジタル通貨)への布石となっていると懸念を示しています。
マーク・ソーントン氏(右)