1998/8/5号
「第2分類開示は貸し渋りに!」
金融監督庁等は、「第2分類=灰色債権」として、全金融機関に一部第2分類のディスクロージャー、引当を求める方針。 しかし、中小企業の7割が赤字=第2分類という中で開示、引当を行えば、 「貸し渋り」が一気に広がる恐れが大きい。 中小企業をぎりぎりまでバックアップしている信用金庫業界も 反対運動を展開しているが…。

“灰色債権”開示で“貸し渋り”更に加速

 第二分類も開示、引当方向か
   日銀、監督庁の意向

 長期不況による優良貸出先の減少や、早期是正措置による金融機関の融資慎重姿勢で「信用収縮」が顕著になる中、当局ではもう一段階進んだ貸出債権の開示並びに償却引当を叫びはじめており、信金関係者は危機感を募らせている。
 日銀や金融監督庁では、第二分類を「灰色債権」と見て、三分類に近い一部第二分類の開示及び引当を言い出している。
 また、七月二日発表された政府・与党による「金融再生トータルプラン(第二次とりまとめ)」には、「先の国会で成立した金融システム改革法により、来年三月期より全ての金融機関に対し、連結ベースでSEC基準と同様のディスクロージャーを行うことが、罰則付きで義務化された」と「過去形」で明記された。

 全金融機関でSEC基準のディスクロ実施方向か?

 実際は法律で決まったのは、@ディスクロの義務付けAディスクロで連結ベースで決算を出すBディスクロしない場合や虚偽報告の場合に罰せられることだけ。
 注目のディスクロの「開示範囲」については、金融システム改革法が施行される今年十二月一日までに、大蔵省令・総理府令で定められる予定になっている。
 しかし当局関係者によると、それはあくまで「手続き上」のことであって、法案に明文化されていないもののすでに金融システム改革法にSEC基準の開示の義務化が「織り込み済み」という。そのため、トータルプランでも、「(全ての金融機関で)SEC基準と同様のディスクロージャーを行うこと」まで「義務化された」と書かれているのだという。
 大蔵省、政府の方針はすでに明快に決まっているのだ。
 SEC基準では、「破綻先債権」、「六カ月以上延滞債権」のほか、「三カ月以上延滞債権」、「貸出条件緩和債権」が開示範囲となる。全銀協では今回の十年三月期決算より同基準で開示を実施している。

 銀行と全く同じ開示範囲を「義務付け」へ

 これまで不良債権の開示範囲は、あくまで各金融業態や個別金融機関による「自主的な」開示との位置付けであった。
 開示範囲を規定するものは業界統一基準ぐらいだが、それを無視した開示をしても、法的には問題はなく、仮にディスクロ誌に不良債権を記載しなくても罰せられることはなかった。
 だが、来期からは、開示が法律、省令、府令でガッチリと決められ、これに従わねばならなくなる。
ディスクロ誌を出さなかったり、虚偽の記載をした者に対する「罰則」(法人の場合、一年以下の懲役、二億円以下の罰金)も設けられた。

 当局の意向通り、これから業界それぞれの開示基準が認められず、全金融機関「一律」での開示範囲が「義務付け」されることになると、預金者にとっては色々な金融機関を容易に比較・選択できるというメリットが出てくる。
 しかし、融資を受ける方は、より一層の「貸し渋り」に見舞われる危険性が大きいと見られている。

 「中小企業の七割が赤字なのに−」

 ある信金関係者は、
「大企業中心で、業況が悪くなればさっさと融資を引き揚げる都銀と違い、信金には中小企業を支える使命、役割があり、貸出先層も都銀と相当異なる。なのに、なぜ、都銀と同じ基準で開示しなければならないのか」と言う。
 特に問題なのは、「貸出条件緩和債権」の開示。信金の融資先である中小企業はもともと経営が脆弱で手持ち資金が少ない上、現在、深刻な不況に見舞われているため、信金側が一定期間金利を負けたり元金の返済を猶予するなどして支えているケースが多い。そのため、各信金の抱える「貸出条件緩和債権」は、膨大な件数に上ると見られる。
「この不況で、我々のお客さんである中小企業の七割が赤字、つまり二分類ですよ。『儲かっている中小企業なんて、一体どこにあるんですか』と言いたい。
 こうした中で、債権の相当部分を開示、引当せよとなったら、自己資本比率達成のためにお客さんの切捨て、『貸し渋り』が起こるのは、もう目に見えていますよ」(都内某信金)。
 信金としても、二分類まで償却することになると、償却原資が問題となってくる。収益がダウンしはじめているのに、どうやって費用を捻出したらよいか--。

 「二分類は不良債権ではないのに…」

 同時に、各信金関係者が問題視しているのが、当局やマスコミが「第二分類」=「灰色債権」として扱っていることだ。
「二分類は、現場の我々に言わせれば、何ら問題のない債権。ちゃんと“生きている”お客さんです。それがあたかも“死に体”とか“不良債権”のように言われては困りますね。『本来、第三分類に入るべきものを金融機関がごまかして第二分類に入れている』かのように誤解されている」(都内某信金)。
 関係者によると、現実に第二分類債権が貸し倒れになるケースは、〇・数%〜数%に過ぎないという。
 中小企業の殆どは手持ち資金が少ないので、運転資金を借り替えしながら営業している。赤字先、二分類といっても、利息をきちんきちんと返済している所が多い。これを、赤字先、二分類=即、不良債権として貸し渋りをすれば、本来営業できる融資先が潰れ、かえって不良債権を創出することとなる。
 「国際化ということでディスクロージャーがどんどん進められていますが、債権の種別も考えず、何でもかんでも開示・引当さえすればいいというものでもないのではないか。それによって、預金者は納得するかも知れないが、一方で中小企業が貸し渋りにあって、日本経済がますます弱体化するのだとしたら、一体、何のための政策なのか。
 これは国家としての大きな問題になりますよ」と、指摘する向きもある。

大蔵省・金融監督庁
「銀行も信金も同じ」
「貸し渋り」黙認か?

当局はSEC基準断行の構え

 現在、当局ではSEC基準による債権開示の方向で着々と省令づくりを進めており、今年十二月一日までに省令・府令を発令することになっている。
 こうした中、全信協等では、「債権の一層の開示は中小企業への『貸し渋り』につながる」として、反対活動を展開しているが、当局はまるで聞こうともせず、大蔵省は「直接の行政・監督は金融監督庁が担当」、金融監督庁は「法案等の企画立案は大蔵省が担当」と、“タライ回し”にして、全く請け合わない状態だという。
 当局としては、三カ月延滞債権、貸出条件緩和債権までの開示をあくまで“断行”する考えなのである。
 ある当局関係者は個人的な見解としながらも、「三十兆円もの枠の公的資金(税金)を銀行等に入れるのに、肝心の金融機関の債権の内容がきちんとディスクロされていないようでは、とても納税者に許してもらえないだろう。
 信金関係者としては、『自分たちはこれまで公的資金など使わず、業界内処理でやってきたし、今後も公的資金はあまり使わないだろう。なのに他業態に巻き込まれてディスクロしなければならないのか』−と思われるかも知れないが、一般預金者から見れば、銀行も信金も信組もみな同じ。
 あまつさえ、預金者は金融機関の不良債権に不信感を持っており、徹底したディスクロージャーを求めており、一層の開示は避けられないと思う」としている。

都内中小企業、4月以降、資金繰り悪化

東京商工会議所、中小企業への貸し渋り問題に動く
東商では、中小企業が「信用収縮」により深刻な状況に陥っていることから、 中小企業専門金融機関である信用金庫の団体、東京都信用金庫協会と7月22日、会合を持ち、対応策を練った。

全信協、 ディスクロージャー開示項目を討議

東信協、 第2分類開示に反対意見相次ぐ

小渕総裁の知られざる金融・経済見識
とかく「経済オンチ」と揶揄される小渕首相だが、 実は昭和52年当時、衆院大蔵常任委員長の経歴がある。この時、米国金融視察を行ったが、視察結果を纏め、本まで出版していた。銀行規制とディスクロ について、米国の銀行を取り巻く環境の変化、厳しい 姿勢の連邦準備制度理事会、ディスクロージャー強化 を目指すSEC、高まる消費者運動、バンカメのディスク ロージャー、我が国でも高まる銀行への関心云々−等 と今日の日本金融界を予想してか、かなり思い切った 視察談を発表している。

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